60_二階席から

三月のある日、窓から明るい光が差し込んでいた。

数年前、息子の中学の卒業式で、わたしが座ったのは二階席。ここからちょうど壇上に向かって歩く卒業生たちを見下ろす格好になった。
男子はほぼ全員、慣れないネクタイ姿。驚いたのは、女の子が一人残らず「きものに袴」というスタイルだったことだ。思い思いのきものに袴、つやつやした髪には花飾り。緊張した面持ちで、静かにわたしの前を歩いてゆく。男子は何となくくすぐったそうでぎこちないが、女子は不思議に堂々としている。

明るい色の軽やかな装いが続く中、ときおり15歳にはいささか重たく見える振袖が混じる。
遠目にもわかる生地の重さ、重ねた染め色の奥行き。繊細な刺繍。それは、母から受け継いだものか、祖母からのものだろうか。あるいはもっと長い時間を息づいてきたきものだろうか。
かと思えば、前から見れば、小さな花柄の小紋に、花の一色を取った無地の袴。ところが、卒業証書を受け取って席に帰る後ろ姿を見ると、背から裾まで同じ小紋の柄がつながり、まったく違う表情を見せる袴の女の子。うちの子と同じクラスだったらしく、式後のホームルームを廊下で待っていると、「〇〇ちゃんの、すごく素敵だった」「あれね、呉服屋さんがすすめてくれてね」…という保護者たちの話が聞こえてきた。

同じ「きもの」であっても、そこに流れる時間や選択の層は十人十色だ。

若さにひとつの区切りをつけるための装いもあれば、受け継がれてきた時間をまとう装いもある。提案する人がいて、それを受け止める家庭があり、また次に着る日のために手入れをする家がある。

でも。
着慣れないきものに袴、そしてネクタイ。
ちょっとぎこちなく、でもみんな、晴れやかな笑顔。
どの子も本当にかわいかった。
卒業、おめでとう。

奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんのnoteはこちらより
https://note.com/mimihige

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