水玉の大島紬が届いた。
もうしばらく、きものは要らない。
瞳さんから「お仕立てできました!」と連絡があった。
家で仕事をしていたので、とるものもとりあえず、Gritterを着て飛んでいった。
もちろん、試着するためだ。
いつかは…なんて言っていたけれど、何度も考えた。
あとどれだけ、元気いっぱいできものを着られるだろう。
わたしの「きもの時間」はどれだけ残っているだろう。
いつかは…って、いつだろう。
頭の中で何度もそろばんをはじき、算段した。
そして、今日である。
急いで着たのに、あちらもこちらもぴたっと決まり、鏡の中のわたしはずいぶんすっきりして見える。
裄も、丈も、身幅も、袖丈も、抱き幅も、「寸分たがわず」という言い回しの図解にしたいくらい、ぴったり。
掛け値なし、これまで袖を通した中でいちばん着心地の良いきものだ。
今の体型や着付け上の悩みをお話しして、わたしの基本の寸法を基に、上田社長があれこれ工夫してくださった。
試着して出てきたときの、瞳さんの、太田さんの、偶然居合わせた、検品を担当してくれた小林さんの表情を、わたしは着るたびに思い出すだろう。
水玉は白っぽいものと少し濃く見える2種類。
同じマルキのはずなのに、どうしてこんな表現ができるのだろう?と思ったら、上田社長が教えてくれた。糸を括る時に「手加減」するのだそう。
そんなことまでできるのか。
きものに仕立てあがると、濃淡のある水玉の効果で、反物で見ていた時よりずっと立体感が際立つ。
音もなく雪が降っているようだ。
八掛も見立てていただいた。
nonoの母体である枡儀さんは、もともと胴裏や八掛を扱う商店として創業されたそうで、今もたくさんの種類がそろっている。
その中から選んだのは、茶の地に黒い縞の「縞八掛」。
実際に着てみると、この八掛が実に良い仕事をする。
褄から見えるのは言うに及ばず、袖口や裾にも、この黒い縞の「断面」が点々と見えて、なんというか、「おぬし…できる。」という感じ。
不思議なきものだ。
可憐なのにモダンで、力と品がある。
黙っていても、着ているだけでわたしのこころの弾みが伝わる。
白襟白足袋で古典柄の帯を合わせれば、どこへ出しても恥ずかしくない王道の取り合わせ。
いつも着ている色柄の半衿や足袋ブーツに半幅帯なら、これ以上ない贅沢な街着。
髪が白くなっても、いや、なってからこそが楽しみだ。
水の泡に見立てて、人魚の帯を合わせようか。
テディベア柄の帯で、クリスマスを迎えようか。
それとも、月を織り出した帯と花柄の半衿で、「雪月花」にしてみようか。


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。
岩澤さんのnoteはこちらより
https://note.com/mimihige