43_きれいなしわと、ミルクミントの夏。

 かき氷には、麻のきものが良く似合う。共通点は、「どちらもシャリっとしている」ところ。

 暑いさなか、つい動作もぐったり緩慢になってしまいがちなのだけれど、うかうかしているとかき氷はただの色付き砂糖水になってしまう。かたき討ち、というと大げさだが、テーブルに運ばれたら、ひと口目から「ごちそうさま」まで一気に駆け抜けるべし。こういう時には、綿コーマや絞りのゆかたや、絹紅梅なんかより、麻の「きかん気」がぴったりだ。

 昨今は5月でも6月でも、気候と体感に合わせて麻を着ればよい、という空気になってきた(すばらしい)。とはいえ、麻のきものはなかなか手ごわい。

 夏はこれに限りますと勧められた麻のきもの、うす黄色に極細の黒筋、しぼが立って透け感が美しい。しかし仕立ておろしの麻はごわごわして、なかなか身体に沿ってくれない。きものは強情を張って、あちこちピンと角が立つほど。結果、きものの「中」で、わたしの身体は何となく気まずく、しかもひと回りふくよかに見えたりする。おまけにあっという間にしわになる。

 もう麻なんか着ない!と腹を立てつつ、それでも老舗の軒先に「かき氷」の暖簾が下がる時期になると、麻の手触りと透け感にこころ惹かれ、「やっぱり、着てみようか…」となる。

 何度か袖を通すうちに、麻の糸は汗や呼吸でなんとなく、柔らかくなることに気づく。汗をかいたり少々食べ物をこぼしたりしても家で洗える。手洗いすらせず、「ゆかた洗濯ネット」+「おうちクリーニングコース」で洗濯機をがらがら回しているうちに、おや?少しずつ、きものの表情が変わってくる。つっけんどんで無愛想だったきものが、身体に沿ってくる。すこしだけ仲良くなると、うれしくなってまた着る…涼しい!汗をかいてまた洗う、さらに柔らかく、心地よくなる。…ここまで、夏を三回くらい過ごしただろうか。わたしとその麻のきものはお互いに慣れ、お互いをちょっと理解した。

 「きかん気」はそのままに、柔らかな着心地に育った麻のきものは、夏の唯一無二の一枚。もちろんあっという間にしわになるけれど、わたしはもう、このしわは怖くない。だってセレモニーじゃないし、お茶のお席でもないんだから。しゃきっとした博多織の半幅帯を吉弥に結んで、あるいはもっとくだけた兵児帯を気軽に巻いて、夏の京都のまちへかき氷を食べに行く。今日はミルクミントだ。

奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんのnoteはこちらより
https://note.com/mimihige

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