39_「マルキ至上主義」に、ひとこと。

 「…という計算で、これが『7マルキ 一元』、こっちは『9マルキ カタス式』ですね」…。

株式会社枡儀の代表にしてnonoの主宰者でもある上田社長に、大島紬の技法について詳細にレクチャーしていただく。枡儀のすばらしい実物も惜しげもなく見せていただきながら必死でメモを取るのだが、かなり専門的な話が続き、ついていくだけで必死だ(が、これほど贅沢な時間もないだろう)。

「『マルキ』というのは、「80」のことなんです。12をひとまとまりにして『1ダース』っていいますよね。これと同じで『80=1マルキ』と言います。」

大島紬に興味を持つと必ず目に留まるのが、この「マルキ」という用語。大島紬独特の絣模様の細やかさを表す用語で、この数が多いほど絣模様が精細ということらしい…のはなんとなくわかる。じゃ、5マルキより7マルキ、そして9マルキのほうが「品質の高い」大島紬なのか?

品質が手触りや着心地などを表すのであれば、マルキは品質の基準ではない、と上田社長はいう。

「『マルキ』は、絣模様を描く絣糸の量を表す単位です。つまり、数が多いほど細やかに絣模様を描くことができるわけですが、手触りや着心地に直結するものではありません。また大島紬の基準はマルキだけではないんです」。

マルキのほかにも、経糸の密度を表す「算(ヨミ)」という単位、一元(ひともと)式か、カタス式かという絣の作り方の種類、総絣や摺り込みなど特殊な技法の有無、染織方法は泥染めかそうでないか、など、大島紬の組成を表す基準はたくさんある。しかも、どれも織物の「仕様」を表す語なのだ。そう、「品質」ではなく、「仕様」。その大島紬が「どんな織り方で成り立っているか」を示す基準なのだ(それはメーカー、問屋、販売元などにとっては不可欠な「情報」である)。またそれぞれの締機や製織の難易度も柄によって異なる。単純な数字で表された「マルキ」が独り歩きしてしまっているようだが、どんな織物(描きたい紋様、販売価格など)を作りたいかによって、適切な仕様(マルキや、算(ヨミ)や、色や染め方や…)を考えて織物の設計をすることが多く、複雑な仕様を裏付けする技術がそれぞれの大島紬に込められているのだ。

では、どうやって「良い」大島紬を選べばよいのか?「本場大島紬」であるかを判断するには経済産業大臣が指定した、伝統的工芸品に付けられる「伝産マーク」がついているかだが、それとは別に、上田さんの答えはいたってシンプルだった。

「自分がその柄を好きかどうか。そして、自分の財布に見合うかどうか。それだけです。そのためには、どこで買うかが大切でしょうね」。

気分の上がる接客をしてほしい、楽しい催事に行きたい、一円でも安く買いたい…と、財布のひもを緩めたくなるポイントは人によって違う。

「この店で買いたいと思えるような自分に相性の良い店を見つけて、『こういう大島紬はないだろうか?』とリクエストするのが良いかもしれません」。

手間暇も、財力も必要なことは間違いない。が、こうやって巡り合った大島紬はきっと、「あなたのために生まれてきた」一枚だ。


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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