今日も、笑顔の瞳さんが迎えてくれた。
ハンガーラックにずらっと吊られた灰色のReady7。
ああ、検品の最中だったのか。
所用があってnonoのオフィスを訪ねると、いろいろな商品が広げられたり、積まれていたりすることがある。足袋の検品に追われていて、ということもあったし、ある時には「今、Gritterの反物を裁断中で…埃っぽくてすみません」と、綿埃を払う瞳さんとスタッフの太田さん。
ショールームの一角にある商品撮影のための小さなスタジオに、照明とパラソルが広がっていることもある。こちらで試着を、と案内されたスペースには、サイズや色別に整然と整理されたストック。数字や注意書きの付箋が貼ってある。
織物や染め物の産地訪問や、作り手の声はたまに目にすることがあっても、それ以外の「作業」の部分はなかなか目に見えない。
サイズを分け、タグを付け、写真を撮り、説明を書く——
商品が届くまでに必要な小さな工程は、実際には驚くほど多い。
シャープでエッジの効いたいでたちで、いそいそと出かける朝が来るまでには、地道で手間がかかり、時には埃だらけで重いものを運ぶ、そんな仕事をしてくれた人がいる。
nonoの皆さんとお話しする機会が増え、新商品が実際に世に出るまでの試行錯誤がときおり垣間見えるようになった。上田社長も瞳さんも、決して声高に苦労話をしない。淡々と誠実に、自分たちのほしいもの、すてきだと思うものを探す。この先のきものの姿を考え、新しいかたちを与える。
nonoが作り出す新商品はいつも、とても静かにリリースされる。dateやReadyといった、これまでの「きもの」の枠組みを軽やかに飛び越えるような商品でも、だ。その快適さや機能性に、いつも「待ってました!」と膝を打つ思いのわたしにすれば、その静かさは時にはがゆいほど。
けれど、nonoのものづくりは、地道で手間のかかる検品や裁断と地続きなのだと思う。
手を、頭を、心を動かし、新しいものを届ける。
みずみずしい新柄のGritterを眺めながら、「埃だらけで…」と笑っていた瞳さんと、太田さんの笑顔を思い出す。

奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。
岩澤さんのnoteはこちらより
https://note.com/mimihige