16_ Beyond the border

自他共に認める「着るものオタク」なのに、このアイテムを何と呼べばよいのか考えあぐねている。サイト上の公式名は、着物ラップスカート Around。着てみると確かに、ラインのきれいなロングタイトの巻きスカートだ。

きものと同様、前は深い打ち合わせになっていて、少々飛んだり跳ねたりしても裾がはだけて見苦しくなることはない。一方、きものと違ってボタンで留めるようになっているので動きやすい。大きなポケットにはスマートフォンがすっぽり収まる。右前がちょっと上がり、裾すぼまりのタイトなフォルム。懐が深いというのか、いろんなトップスや靴と相性が良い。きちんとした白シャツもカジュアルなボーダーTシャツも似合うし、ごついワークブーツも華奢なヒールも履ける。生地は羽織ジャケットmind着物ジレJINと同じ。家で洗濯できるし、皺もつきにくくてスリーシーズン着られる。寒くなったら、ざっくりしたオーバーサイズのニットに合わせたい。靴やジャケットを選べばたぶん冠婚葬祭も問題ないだろう。リトルブラックドレスならぬ、リトルブラックボトムとでも言おうか。履いて動いてみて、きもののかたちというのは実に端正で美しいことを再認識した。活動的なのにエレガント。わたしはこれからしばらく、少し気の張る取材が続くのだけれど、ボトムはこれに固定してトップスと靴を替えれば、「次の取材には何を着て行こうか」という悩みからはずいぶん解放される気がする。

「きものをきれいに着るためには、どうしても基礎的なスキルが必要で、それこそがきもののええところなんですけど、僕は純粋に『スキルなしで着られるきもの』を作ってみたかった」。

一時は毎日のように袴を着けていた社長の上田さんは「上下に分かれ
たきもの」というスタイルに違和感はなかったという。

「着物の裾裁きって結構楽しくて。でもよく見るとスカートみたいだから、『男はズボン』を取っ払えばもっと楽しいのかなって」。
さらっと、すごいことを言うな。まさにそれ、前回コラムの「解放」じゃないですか。

「もちろん私自身、『スカート』を履くのはまだまだハードルを感じるし、履いたこともないけれど、
『きもの』ならいけるなって。nonoは『キモノファクトリー』ですしね」。

男性のスカートスタイルがメジャーになったとはまだとても言えないけれど、上田さんに言われると、「ああ、それもありだなぁ」と思ってしまうのが不思議だ。だからこのaroundを「巻きスカート」という名前にはめ込んでしまいたくない。

京都市内でも、男性のスカートスタイルをたまに見かけるようになった。いつだったか、黒いロングプリーツスカートの長身の男性が、交差点でわたしを颯爽と追い抜いていったことがある。思わず後ろ姿を目で追ってしまうくらいかっこよかった。

nonoが作り出しているのは確かにボーダーレス、ジェンダーレスではあるのだけれど、さらにその向こう側にあるもののような気がしている。もう少し考え続けてみたい。


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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