18_ わたしの「きもの、事はじめ」 その②。

「あんた、勇気あるなぁ」。

その口調から誉め言葉ではないことは明らかで、全身に変な汗がふき出した。

きものが着られるようになると、うれしくなって毎日のように着てみたくなる。一重太鼓の帯結びすら覚束ないのに、数少ない手持ちの帯やきものをコーディネートするのが楽しくてたまらない。幸か不幸か、わたしはフリーランスの編集者/ライターだ。服装はお勤めしている人よりはるかに自由で、毎日のように意気揚々ときもので仕事に出ていた。物珍しいことも手伝ってか、会う人、会う人、「おきもの、素敵ですね」などと言われる。そのころの写真を見ると、取り合わせも着付けも目も当てられず(決して、今が上手というわけではない)、今思うと真に受けるのもどうかしているのだが、「きもの熱」の発熱中はそんなことにも気がつかないもので、ますます調子にのってしまった。

で、クライアントに連れられて、きものでとある役所を訪問した際に浴びたのが、冒頭のひとことだった。

穴があったら入りたかった。調子に乗った自分が恥ずかしくて、そのあとはどんな話をしても頭に入らず、ただひたすら早く帰りたかった。

どうしてあんなに恥ずかしかったのか。多分、自分の中でどこか思い当たるというか、図星を指されたところがあったのだろう。クライアントに同行して、さらにそのクライアント(しかも官公庁)を初めて訪問するなら、ほんとうにそのいでたちで良いのか、もうちょっと考えるべきだった。「きもの」という衣服が問題なのではない。着付けも所作も初心者そのものなのに「きものを着てオシゴトに行く自分」に酔って浮足立っていることが丸見えで、いろんな意味で(あまり品の良い表現ではないが)イタかったんだろうなと思う。そしてなんとなくだけど、自分で自分の、その場違いな「イタさ」に思い当たったのだ。

今はどうかというと、初回の打ち合わせからきもので行くことはある。あるが、それはある程度、自分なりに考えて計算した上でのことだ。年齢を重ねたこともあるし、少しは着慣れてもきただろう。会う相手がどんな人で、どんな場所で、だからどんなきものを選ぶかも含めて、きもので行くことで好印象を持ってもらえるとか、わたしのことを覚えてもらえるとか、端的に言えば、自分にプラスになる場を選んで着られるようになったと思う(少しは)。逆もある。今、毎週のようにインタビューの仕事が続いている。着るものはシンプルな白シャツと黒のロングスカートとか(Aoundは目論見通り大活躍)、デザインの少ない黒いワンピースとか、あまり服に強い印象が残らないように心掛けている。黒子というと大げさだが、相手にわたしの「着ているもの」よりも「質問」にこそ意識を向けてもらって、できるだけ自然に深く話してもらいたい。そう思うと、個性的な衣服の印象は一種のノイズになってしまうからだ。

着物ラップスカートaround

この小さな「事件」以来、きものを着るのが少し怖くなってしまった。折しもどんどん暑くなる季節だったこともあるのだろう、あんなに熱を上げていたのになんとなく疎ましくなって、リユースのきものや帯は「箪笥の肥やし」となり、わたしはまたモノトーンベースの、モード系の洋服に戻っていった。

…なのに、なのにまた!やっぱりきものが着たくなってしまった。どうしてだったのか?は次回に譲るとして、またきものが着たくなったわたしの背中を押してくれたのが、GritterはじめKimono Factory nonoのあれこれだった。わたしの着たいきものが「ここにある」と思った(そして、第一回に戻るのです)。


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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