58_視線の行方

久しぶりに会った友人と、京都の古いカフェで楽しくお茶を飲んでいた時のこと。
ふと、なぜか話に集中できなくなっているのに気づく。
ああ、そうか。わたしに背を向けて座っている、隣のテーブルの女性が気になるのだ。
長着から盛大にはみ出している長襦袢の襟。背中心が歪んでいて、お太鼓の上がたるんでいる。
位置的にどうしても目に入ってしまい、いささか上の空。友人との話も生返事になりがち。この時わたしは洋服だったから、余計になんだか見てはいけないものを見てしまったようで、いたたまれない。そして、目が離せない。

自分も日常的にきものを着るようになってから、街で和装の方を見かけると、どうしてもその着姿を瞬時にチェックしてしまう。
「何を着ているか」もさることながら、同じくらい気になるのは「どんなふうに着ているか」。
襟合わせに衣紋の抜き方、着丈、おはしょりの処理、衽線があっているか、前幅が狭くないか、帯揚げの処理、背中心の歪み、背中のたるみや皴…このあたりは一瞬でだいたい見て取れるようになったのは、ある程度自分も着られるようになった証左かもしれない。がしかし、目が行くのはほぼ、自分が苦手なところばかり。こういう時、自分のことは完全に「棚上げ」しているので、いささか情けないし後ろめたい。

隣のテーブルは何かのミーティングらしく、和やかな中にも真剣な雰囲気が漂って、見ていて気持ちが良い。きものの女性もとても楽しそうだ。背を向けているのをいいことに、やっぱりついつい目が行ってしまう。お行儀が良いとは言えないし、自分で自分に「感じ悪っ。」という声も聞こえて、たいへん居心地が悪い。同席している友人にも申し訳ない。

別の声も聞こえてくる。「もしかして、あなたもそうかもよ?」
ベレーに足袋ブーツにベリーショートカットで丸メガネ。ミニサイズのジュラルミンケース。方向こそ違え、わたしの着姿を見て「いたたまれない」「けど目が離せない」思いをしている人がいないとは限らない。うーん、でもわたしは超ご機嫌に着ているんだけど…。
こういう心の動きは、洋服ではたぶん起こらない。「何、あのダッフルコートの着方!」なんて、あまり聞いたことがないものね。
「きもの警察、去れ!!」と心から思っているつもりだったけど、わたしのどこかにやっぱり、「きものバイアス」はかかっているのかなあ…。

奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんのnoteはこちらより
https://note.com/mimihige

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